劇団普通『水彩画』のアフタートークにて、前川知大様をゲストにお迎えしお話しいただきました内容を、アフタートーク回にお越しいただけなかった皆様にも是非ご覧いただきたく、お許しをいただき書き起こさせていただきました。是非ご覧くださいませ。
ゲスト 前川知大様(劇作家・演出家)
石黒麻衣(劇団普通主宰)
舞台写真:福島健太
石黒 はい、それではアフタートークを始めさせていただきます。よろしくお願いいたします。本日お越しいただきましたのが、イキウメの主宰で、作・演出の前川知大さまです。よろしくお願いいたします。
前川 よろしくお願いします。
石黒 (石黒お辞儀する)劇団普通の石黒で進めさせていただきます。どうぞおかけください。ありがとうございます。ちょっとなんか向かい合ってすごい不思議な感じなんですけど、よろしくお願いいたします。
前川 距離近くないですかね。
石黒 そうですね。やや気持ち離れます。(椅子を離し)はい、今回初めて劇団普通をご覧いただいたとお聞きしまして、いかがでしたでしょうか?
前川 はい、とても楽しく拝見しましたし、すごく面白かったです。はい。
石黒 ありがとうございます。
前川 ちょっと簡単に、今日お呼ばれした経緯みたいなことを言いますと、僕の劇団のオーディションに石黒さんがいらしてくれて、俳優として。そのときにすごく面白くて。僕あの劇団普通はちょっと見たことがなかったんですけども、なんかすごく独特な演技で、しかもそのときのオーディションで使った台本が、なんかカプセル状の謎の物体が喋るっていう、変なシチュエーションで。その謎の声をやっていただいたときに、他の人と全然違う感触がして、すごく面白い俳優さんだなと思って。その後、うちに出演していただくことはなかったんですけども、1回ちょっとお会いして「あの、どういう人なんですか?」っていうことを聞かせてもらったことがあって。で、なにか(依頼すること)ありましたらよろしくお願いします。みたいな感じでね。ちょっと話したってことがありました。
石黒 はい、そのような感じで。初めて会ったのは、私が役者としてオーディションを受けさせていただいたときにお会いしまして。そこからあの本当に興味を持っていただけたのは、本当信じられない光栄なことで、ありがとうございます。
前川 茨城の言葉でやってるっていうのも、そのとき初めてお聞きして。僕の妻が水戸出身なんですね。それで僕、婿っていう形で入ったんで、もう本当15年以上、年3回ぐらいは水戸に行って。実家ですよね、実家に帰っているもんですから。その言葉でちょっと芝居を見るっていうのが、今日楽しみで。結構衝撃を受けました。
石黒 どうでした? 方言の感じは。
前川 お父さんが、お父さんが正直、僕の義理のお父さんだったんですよ(笑)。
石黒 同一人物(笑)。
前川 同一人物かなって思うくらい、ああいう人で。すごくなんか、これもすごいびっくりしたんですけども「何が?」って言いますよね。すごく言うんですよね。「何?」って。食卓囲んでて、僕がある程度話した段階で「何が?」って入ってくる。絶対そこまでに聞いてたはずなんだけど、「何が?」って入ってくるから。あれ?これ最初から説明しなきゃダメなのかなと思って。結構最初の頃は最初からすごい説明してたんですけど。聞いてますよね?
石黒 そうですね。なんかあの、話の多分とっかかりとして「何」って。
前川 「何が?」って、しかも結構強めに入ってくるから。あ、お父さん、それはですね。みたいな感じでやることがすごく多くて。でもよく親戚の集まりとかで聞いてると、結構みんなそれやってる感じがあって。あれ最初すごく怖かったです。
石黒 そうですよね。
前川 こっちでお母さんとしゃべってて、このへんからお父さんが「何?」とか言ってくるのが怖くて。
石黒 まさにそう。
前川 ああ、そんな言うんだと思って。
石黒 そうですね。すごい共通してました。私の出身も水戸の隣の那珂市というところなので、多分あの方言としては茨城県内がちょっと東西南北に広いので、ちょっとずつ違うんですけれども、多分とても近い方言だと思います。本当にみんな「何」って言って、私も子供の頃は怖かったですね。みんな語気がとても強いので。
前川 「なんとかでしょうよ」とかね。あれもすごく連発してたし。あとなんでしょうね。お母さんのあの感じも、あるなぁと思って。よく見た感じっていうか? なんかあそこまで、「私のためには」という感じではないんですけども。でもやっぱりちょっとお母さんの振る舞い方としても近くて、あれってなんですかね?
石黒 なんなんでしょうね。でもなんかどことなく、うちの母も少しはモデルになってるんですけれども、親戚であるとか。なんだろう? お母さんの概念みたいなものがなんかああいう形に集結してる感じがします。
前川 これは石黒さんが自分の生活の中で見てきたものを書いてるって感じなんですか?
石黒 そうですね。以前は劇団普通が方言をやっていなかった時期と方言が始まった時期の2期に分かれていまして。なんかその会話の淡々としてるところとか、日常切り取ってるところはあまり実は変わらないんですけれども。なんか、その方言をやってみてから、より日常の瑣末なところになんか美を感じるようになりまして。それに自分も自覚があって、それで、私がすごい記憶力がいいわけじゃないですけど、昔のこととか周りの人の話してることをよく覚えていて、なんかそれをなんかこう再現したいっていう。再現といっても日常の体なので、そこが取捨選択が発生してるんですけれども、その中で特に美を感じるところを、舞台上になんとかして再現したいっていうところから、この方言の芝居のちょっと原動力っていうか、やりたい達成したいことのひとつになっています。はい。
前川 でも本当にあの茶碗ひとつでね、大騒ぎする感じとか。そこに、すごいコミュニケーションが足りない感じだったりとか、そこですれ違っちゃう感じだったりとか、あのエピソードなんかすごい具体的だなと思うんですけど。それも実体験っていうか見たものなんですか? 近いんですか?
石黒 いや、実はあの茶碗のエピソード自体は、本当にあったことではないんですけど。もうほとんど似たようなことはもう日常の中でたくさん起こってるので、そこからなんか集結させた感じです。
前川 その日常っていうのはあれですか? 家族ですか?
石黒 そうですね。家族。もう私も茨城を出て20年以上になるんですけれども、なんかその茨城にいた頃と、今、東京に出てきて帰っているときの記憶ですね。なので、実はその出てきてから帰ることがだんだん少なくなってきてしまったので、その1回1回の中で見聞きしたものっていうものが、だんだん少なくなっていくわけなので、実際は子供の頃を通して、大学で上京するまでの間に見てきたものっていうのが大半を占めてるんですけど。なので、もしかしたら今現在の茨城にいるわけではないので、すごく昔の記憶を再現してる形が近いのかもしれないです。もう子供の頃に、現在私が母親と話してるわけではなくて、母親が親戚と話してるとか、母親がさらにその祖母と話している様子とかを記憶してるので、それが多分混ざってどんどん再現されてる形になってると思います。
前川 ああいう場所に実際いると、いたたまれない感じになるじゃないですか。さっきはその日常の中の、すごい瞬間的な美みたいなものに惹かれるっておっしゃってましたけども、子供のときにそういうのどういう視点で見たんですか?
石黒 いや、もう子供の頃は、やはりおっしゃる通り本当にいづらくて、やっぱりいとこの子供たちと固まって、だいたい田舎だと大人のグループと子供のグループに分けられるので、子供たちと一緒に全然そっちの会話は意識せずに、いとこ同士で遊んだりしてたんですけども。やっぱり遠くで話してる、なんだろう? このひとつの音楽みたいにこの話してる抑揚とか、やってるやり取りが全部記憶に残ってて。でも今思い返すとなんかこんなつもりで言っていたのかな? とか。あとはその会話だけを覚えてて、その話してる人の真意っていうのを、まだ私が理解しきれてない部分があるんですよ。なので、台本にして書き起こしてみてやってみて、そこまでやって、もしかしてこういう気遣いでやってたのかもしれないって、逆に気づかされることもあります。はい。
前川 子供ながらに、なんか変な空気になってんなみたいなことは感じてたんですかね。
石黒 感じてました。なんかおかしいなっていうのは、遊びながら。
前川 ニコニコしてるけども、なんかすごい変な間が生まれてんなみたいな。
石黒 そうですね。
前川 そういうのすごい、やっぱり覚えてんだろうなと思いながら。そういうのを、ちょっと演技のことについてもお聞きしたいんですけども。そういう演技? 今日すごくその、自然な演技というか、この距離で見るタイプの芝居を作ってると思うんですけども、どういうことを俳優に要求してるんですか?
石黒 そうですね。なんかあの細かく演技指導とかは初めからしないで、どちらかというと稽古は、この空気感の共有っていうのにすごい時間をかけていまして。今回はあの、伊島空さん以外は全員一度出ていただいたことがある方なので、その時間は割と短めだったんですけど、もうとにかく私が自分のことをすごくたくさん話して知ってもらって、やろうとしてることに興味を持ってもらうっていうところから始めてもらいます。もう本当になんか役者さんには協力してもらうっていうことが本当に一番大事なので、こんなことがあって、こういう空気で私がこうなってて、お母さんはなんかこう言っててみたいなことをものすごく一生懸命話して。なので、最初は私の声が枯れるぐらいずっと自分のことをしゃべって。そうするとぽつりぽつりと、自分のことを話してくださいとか言わないんですけど、話してくれたりして。その空気を作っていく中で、だんだん芝居がひとつずつ完璧にシーン作っていくっていうよりは少しずつ階層で作っていく感じですね。なんかレイヤーがかかってるっていうか。なんか初めは動きとかも全然指定しないで、だんだんやっていくうちにひとつに集約していくようにしてます。ところどころどうしてもっていうところ、ここでこっちを向いてほしいとかいう指定はするんですけれども。
前川 階層っていうのはどういう階層なんですかね。
石黒 その階層が、どちらかというと、芝居の動きとかセリフの言い方の完成度っていうよりはなんか精神、なんだろう。その役の持ってる精神性みたいな。なんかすごい怪しい話みたいで恐縮なんですけれども。なんか初めからなんかそのシーンを全部理解していなくてよくて、なんかやっていくうちになんか、あのもうこれ役者さんの努力だと思うんですけど、高まっていってある日いきなりガラッと変わるんですよ。なので、多分この相手と会話をしているうちにそれがだんだん実際の会話になってきて、その多分私がどんなに段取りをつけても、その間は絶対に埋まらないので、役者さんが埋めてくださらないと。多分そこが埋まってくるっていうのが、そのあの、なんだろう? レイヤーがどんどん重なっていくっていうことなんじゃないかなと思ってます。
前川 やっぱりそうすると、一番最初に石黒さんがなにをやりたいのかってことだったりとか、このシーンで見せたいものだったりとか、見たいものの共有みたいな部分のほうが大事で。そのシーンの具体性とかよりは、そこの部分を持ったうえで、やってくれみたいな感じなんですかね。
石黒 そうですね。なので理想としては、もうアドリブでいつまででも続けられるようになるっていうのが。そこまで行くと多分、セリフも余裕持って言えるかなっていう気持ちですね。あとは、多分方言指導があるからだと思うんですけど、全部私が方言はiPhoneのボイスメモに吹き込んで、皆さんにお渡ししてやってもらうんですけど。一番最初にあの方言をやったときは、全然感情を込めずに読んでたんですけど。感情が入ると方言が変わるので、「感情込めて読んでくれ 」って言われると、自然と私が一人で落語家さんみたいに全員演じ分けて読むことになるんですよ。そうするとそこでなんかある程度セリフの意図とか間とかが伝わるって言うのがあって、それも演出の一部になっているのかなと思います。
前川 台本の段階ではもう全部あれですか? 茨城の言葉にしてるわけですよね。
石黒 そうですね。ただあんまりなんかその独特な、「でしょうよ」とかはあるんですけれども、基本的になんかちょっともう標準語に見えるぐらいの台本です。ほとんどイントネーションなので。
前川 よく劇団普通の話聞くと「声めっちゃ小さいですよ!」とか言われて(笑)。あ、そうなんだと思って。だからすごく声ちっちゃいからすごい集中して聞くみたいな話を、うちの劇団員で見に行ったやつが言ってたんですけど。今日この空間だからそれは感じなかったんだけども。でも多分あんまり過剰にやられることは避けたいと思いますよね。
石黒 そうですね。
前川 そういったときってその俳優が、表現欲というか、俳優が表現しすぎちゃうことに対してどう対処してるんですか?
石黒 それに対しては、演出は私だからなんですけど、プレゼンだと思ってて。なんかこっちの方がなんか面白く、なんかこっちのほうがっていうわけじゃないですけど、なんかこれをやるとすごくいいことが起こる気がするっていう風に一生懸命説明して。なので、基本的になんか否定とかはしないです。全然。それは内から出てきたことなので。なので普通になんか対等な立場で意見を出し合って、で、なんかちょっと1回頼むからやってみてくれって言ってやってもらって。ほとんどお願いみたいな感じなんですよ。だから私がよく演出してて思うのが、子供のときにごっこ遊びとかをするじゃないですか? 親と。そのときにお母さんこれ言ってって、私がこれ言うからって。もうその延長だなっていう風に思ってます。なので、それでお願いしてやってもらって、納得してもらったり。頼むお願いって頼み込んだりいろいろですね。そこはあんまりこう、なにかすごく特別なメソッドがあるっていうよりは、信頼関係をなんとか作ってやってるっていう感じです。はい。
前川 方言を、入れる前は標準語でやってたわけですよね。で、方言を入れてから、自分の芝居がどういう風に変わったと思いましたか。
石黒 そうですね。私自身はそんなに変わった印象がないんですけれども。見る方が方言がない頃のほうが、なんかちょっとあの淡々としすぎてて、乗せる情報も限られてるので、不条理劇っぽく見えるらしくて。今回あの多分方言になった分、感情がその分乗るので、情報として。お客さんが感情移入をしてくださりやすくなったっていう感じがします。
前川 方言ってね、やっぱあったかい感じがね、ちょっとあるし。確かにその標準語であんまりこう抑揚つけなくやると、すごく淡々としたものになってしまうなと思って。ただ標準語だと、もちろん淡々と、とことん淡々とやることもできれば、感情を乗せることもできると思うんだけど。そういう点で僕がなんとなく想像してたのは……あの、茨城の方言のネイティブの人っているんですか?
石黒 あ、この中ですか? みんないろんなところから来た方で。
前川 ですよね。やっぱり、方言が自分の言葉じゃないから、そこの制約みたいなものがすごく働くんだろうなと、なんとなく勝手に思ってて。だからそこが、ひょっとしたらこのトーンの芝居をやる上での、俳優の一個の枷みたいな感じになって。それがすごく上手く機能してるのかなと思って。なんとなく俳優の表現のいいストッパーになってるように思いました。方言っていうある種の縛りの中で、その感情表現が行われるのも、なんかこの距離の芝居としては、すごくナチュラルに、要は作為的じゃない感じがすごくあって。面白いなと思って。茨城の言葉で、北関東の言葉で芝居をやるって、あんまり聞いたことがないですよね。でも(標準語と)近い方言ではあるんで、それでもなんかこういう風に機能するのかと思って。俳優の、自意識との距離感みたいなものが取れるんだなと見ていました。だからやり続けて、用松さんなんかだいぶ出てるから、ちょっと上手くなりすぎるんじゃないか(笑)。
石黒 そうですね(笑)。
前川 もう上手くなりすぎると要は表現できちゃうから。それがどう見えてくるのかな? なんて感じもちょっと思いましたけど。
石黒 そうですね。ちょっとこれからどうなっていくのか、自分がまた方言だけを書き続けるのかとかも、ちょっといろいろ私には課題が残されています。あ、なんかお時間が来たようですので。このあたりで、ありがとうございます。
前川 茨城の言葉で続けていってほしいし。水戸でやってくださいよ。
石黒 はい、ぜひやりたいと思ってます。ありがとうございます。最後になにかお知らせなどございましたら。
前川 お知らせは、イキウメの公演が8月9日から池袋のシアターイーストでありますので、よろしければ。小泉八雲の怪談やりますので、よろしくお願いします。
石黒 ぜひとてもとても面白いので。もうそれはもう周知のことと思いますが、はい。じゃあ、本日はありがとうございました。
前川 ありがとうございました。
2024年6月19日(水) すみだパークギャラリーささや