『病室』アフタートーク 玉田真也様

2024.12.12

劇団普通『病室』のアフタートークにて、玉田真也様をゲストにお迎えしお話しいただきました内容を、アフタートーク回にお越しいただけなかった皆様にも是非ご覧いただきたく、お許しをいただき書き起こさせていただきました。是非ご覧くださいませ。

ゲスト 玉田真也様(玉田企画主宰)
石黒麻衣(劇団普通主宰)

舞台写真:福島健太


石黒 本日はご来場ありがとうございます。そして、アフタートークもお聞きいただき、ありがとうございます。本日のゲストは玉田企画主宰の玉田真也さんです。今日はありがとうございます。

玉田 ありがとうございます。玉田企画という劇団を主宰している玉田と申します。よろしくお願いします。

石黒 はい。

玉田 お久しぶりです。

石黒 お久しぶりです。実は玉田さんとこんなにじっくりお話をさせていただくのが、本当に初めてですごく緊張しております。はい。

玉田 1回、ちらっとしゃべったことがあるくらいですね。

石黒 そうですね。

玉田 たぶん、そのときもここで劇団普通やってて、見に来て、マネージャーさんに紹介していただいて、どうも初めまして、という。本当そんなぐらいしかしてない。で、この間、僕が 3月に玉田企画の新作をやるんですけど、その新作のオーディションを開いて。そのときに石黒さんが来てくれて。そのときの石黒さんがむちゃくちゃ面白かったんです。そのときはしゃべると思ってなかったんですけども。すぐに終わってそのまま。

石黒 そうですね。終わったあと、ありがとうございましたって言って。そのままでした。なので、いま最長です(笑)。最長記録を更新してます。

玉田 めちゃくちゃ面白かったです。

石黒 ありがとうございます。

劇団普通『病室』

劇団普通『病室』

玉田 普通を見るのは、僕は今回2回目なんですけど。前回も面白かったんですけど、なんか僕は今回のほうがグッと来て。いろいろ質問したいことあるんですけど。まず、演出どうやってるんだろうってすごく気になって。もう俳優さんたちみんなすごいんですけど、もちろん上手いんでしょうけど。それぞれ僕も知ってる人たち一緒に仕事した人たち、用松さんとかいるし、浅井さんとかめちゃくちゃうまいこと知ってるんですけど。彼らの他の人たちへの制御のされ方っていうか、すごい負荷をかけられてる感じがする。自由にさせてもらってない? それがいい意味でっていうか。自由にやれば芝居がよくなるわけじゃないじゃないですか? きっと。それをすごい制御して制御して、制御したから出てくるみたいなものをこうどんどん出してるみたいな感じがして。これどうやって演出してるのか、どれぐらいかけてるんだろうなとか、すごい時間かけてるのかなとか。どうやってやってるんですか?

石黒 そうですね、この演出についての質問っていうのが、本当によく皆さまからいただくんですけど。劇団普通のメソッドみたいな、いつもとってるやり方みたいなものっていうのは実はなくて、本当にそのときそのときでものすごく苦労して作ってるっていうのが実情なんですけど。もしひとつなにかあるとすると、稽古期間がもしかしたら少し長めのほうかもしれないです。だいた1ヶ月半ぐらいやってますね。でも、ほとんど最初のうちは稽古は夜だけとか、昼だけとかで、週3回ぐらいから始めて 4、5ってどんどん増やしていく。最終的にはもうほとんど毎日、なんか朝から晩までやったりとかしてるんですけど。これがひとつ特徴かなっていうのは、方言なのでその指導を私がしているので。私の声をボイスレコーダーに吹き込んで、それを皆さんに聞いていただくんですけど。はじめは茨城弁の芝居を初めてやるときは、感情込めずにやったほうが、皆さん自由にできるかなと思ったんですけど、入れると方言が変わるんですね。イントネーションとかアクセントの位置とか。

玉田 感情を入れると。

石黒 はい。それ(感情)を入れてやってくださいというリクエストがあって、それでやってるうちに、そうするとセリフの意図とか、間(ま)とかそういう演出意図みたいなものが、そのセリフを言ってる中に含まれていって、それを皆さんがずっと聞いてるので、それがひとつ演出になってるっていうのかな。

玉田 石黒さんの芝居を見て真似するじゃないけど、そこを参考にしながら土台にしてやってるっていう感じですね。

石黒 そうですね。多分自然にそうなっちゃう部分があるのではないかなと思います。

玉田 なるほど。それであの制御のされ方っていうか、言葉でああしてください、こうしてくださいっていうだけだと、到達できない感じがすごいしたんで。

石黒 そうですね。それと、あとあるのが、やっぱりこうしてくださいってなると、その間が全く埋まらなくなってしまうので。はじめにたくさん、そのシーンの意図とかどういうことをここでしようとしてるのかっていうのを、説明をすごくいっぱいして。ちょっとできたらまたそれでレイヤーを重ねるようにって。一度に全部できるっていうよりはちょっとずつ、ちょっとずつ、動きをとか、感情を塗り重ねてるみたいな感じで。

玉田 最初はなにをするんですか? 録ったセリフを聞いてもらって覚えてもらって、その時点でまだ読み合わせをしてるんですか?

石黒 そうです。はじめは、そんなに座ってテキストを読むだけとかはしないんですけど、動いてもらって。はじめはまあ(録音を)聞いてはもらってるんですけど、好きにやってくださいって言って。全然好きにやっていただいて。それからここのシーンの意図がこうなので、もしかしたらこうがいいかもしれませんって言って。あまりこう押し付けられたなって感じにならないように、なるべく楽しんでやっていただけるように。こうやったら面白いかもしれないっていう。全部プレゼンですね。これが面白いからやってみて、役者さんも楽しんでやっていただけたらいいんじゃないかなと。なので、すごく真面目なシーンなのに、私がそれにすごい面白い意図をつけていって、実際目の前に見えてるのはすごい真面目に見えちゃったりとか。そういうことをしてます。

玉田 結構じゃあ稽古場はもうずっと笑ってる感じですか? なんかでもそんな感じしますね。単純に面白い用松さんのシーンとかはお客さん結構笑ったりとかしてるけど、他のところとかまあ別にシーンと見てるんですけど、これ、実際にやってたら笑っちゃいそうだなとか細かい部分が本当に細かいからそんな感じしてて。(アフタートークが)15分ぐらいしかないって聞いたんで、いろいろ質問したいんですけど。その作劇についてもちょっと聞きたいです。これは着想元とかあるんですか? その、このシチュエーション自体も、なんでこれにしたのかな? とか。病室っていうシチュエーションになんでしたのかな? とか。こういう家族が、家族の描かれ方がめちゃくちゃなんか見たことあるような、知らない人だけど見たことあるような感じっていうのがすごいするんですけど。これはなんかどっかあるのかな? とかそういうのってどうですか。

劇団普通『病室』

劇団普通『病室』

石黒 特にこの『病室』っていう作品なんですけど、これは実際に私の父が入院したときの病院にいた 4人なんです。なので実際のリアルな病室で会話されていた会話もあるんですけど。私も本当に 2 週間ぐらい、たまにお見舞いに行って会うだけで、全然どんな人か知らないので、もしかしたら父とか母の方が詳しいかもしれないんですが。

玉田 完全モデルがあるってことですか?

石黒 そうですね。この作品に限ってはモデルがある。

玉田 お父さん。

石黒 そうです。

玉田 石黒さんのお父さんが、武谷さん。

石黒 はい。

玉田 へー。

石黒 なんですけど、完全に自分のことではなくて親戚のことだったり、友達のことだったりとか、見聞きしたこととか。もう完全に用松さんの、あの役の方とかはどういう人なのかは全部想像なんですよね。もうあの言ってみればみんな想像ですね。

玉田 父ちゃん、父ちゃんって言ってた人ですか? 何ですかね? あの人出てくると常に面白いですね。用松さんが面白いというのもあるけど、全部説明してくれるじゃないですか?(笑)やっぱり断片を語られてるからずっと。それが面白いんですけど、その語られてる部分が表面にちょっとだけ出てて、そこから想像するしかないから集中し続けなきゃいけないというか、ちょっと気抜いてたらあれどんな話だっけ?  ってなるけど、あの人出てきたら全部(疑問に思うことを)聞いてくれるみたいな(笑)。全部どんな気持ちかとか、そういうことまで聞いてくれているから、なんかあのズケズケ感が面白いなって、便利だなとか思いました。あれもでもいたんですね。ああいう人。

石黒 実際はすごい痩せた小柄な方だったんですけど。でも本当にどんな家庭の方かもわからなくて、もしかしたらすごいお金持ちの人かもしれないし。なんですけど、私が見てそこから想像を膨らませて。ただ、もうすごいあんなふうにズケズケ言っていつもムッとしてるのはもうそのままです。

玉田 あのシーン、めちゃくちゃよかったですね。石黒さん出てる。あの二人の、妻と夫の、パジャマ二人で着て。あそこすごい、周りの人も泣いてました。いろんなところからシクシク聞こえて、僕もなんかすごい……グッと来た。で、作劇なんですけど、毎回今言ったみたいな、実際にここへ行ってみてとか、その場を経験してみてとかっていう感じで、自分が見聞きしたりとか、その空気を体験したみたいなことがあって書き始めるんですか?

石黒 そうですね。なんか茨城弁の話は、ほとんどが私が子供の頃から茨城で親戚とか家族とか友人とかを見てきて、そこの実際にあった話とか、そこから、もしかしてこうかもって想像したこととかを元にして描かれていることは多いです。なんですけど、それがもう現在じゃなくて、もう今は東京に来てしまって、ほとんど一年に1回か2回ぐらいしか帰らないので、ほとんど全部過去なんですよ。過去を全部、子供の頃から思い起こして全部追ってる。昔の話を書いてる感じです。

玉田 ああ、現在今経験してることっていうよりも、記憶を頼りに。

石黒 そうですね。だんだん今の新しい記憶がどんどん古くなってって、どんどんどんどん追いついてきている感じです。

玉田 追いついている?

石黒 例えば上京したての頃は、また子供の頃とは違うし。あとまた東京に出てきて、年に2 回ぐらいなんですけど、帰ると、その帰ったときの感じがまたちょっとずつ積み重なって、私も東京出てきて20年ぐらいになるんですけど、20年以上か……。それがどんどん、自分にとっては東京に出てきてから、割と新しい感覚であったんですけど。その離れて暮らすっていう感覚もちょっと昔のことになりつつあって。なので、いつも今からちょっと5年前とか、5年よりちょっと前ぐらいのことから書き始めてる感じです。例えば今現在じゃなくて、ちょっと前なのは、多分自分の中で消化する時間が。

玉田 それはそうかもしれませんね。今まさに経験してるものだと近すぎて書けない。書きづらいみたいな。

石黒 そうですね。

劇団普通『病室』

劇団普通『病室』

玉田 ちょっと距離取りたい感じがあるんですね。なるほど。あれはどうなんですか? 見てて気になったんですけど、前に僕が見た『風景』のときはそうじゃなかったと思うんですけど、結構一人何役もやってるじゃないですか?

石黒 はい。

玉田 『風景』のときはそうじゃなかった?

石黒 一人だけ。鄭亜美さんが二役。

玉田 今回は、割とベッドの上にいる人たち4人を中心にしながら、その周辺にいる人は全部、出てきた人が何役かやりながらやってる感じがあって。ああいう作り方は割とするんですか?

石黒 そうですね。特にこの作品だからやったのが大きいかもしれないです。普段はそんなに何役もやらないんですけど。多分、いろんな人出てくるんですけど、ひとつの家族を頭からちゃんと最後までちゃんとわかるように描こうとすると、全部説明になってしまうので。ちょっとずつ似てるけど、別の環境の家族を配置することによって、お互いの情報を補完するみたいな。こちらのベッドにいた渡辺さんの家族もお兄ちゃんと娘がいて、こっちもお兄ちゃんと娘がいて。どっちも似てるけど、最終的に行き着くところはちょっとずつ違うみたいな感じで。なので、比較したりとかお互い補完し合ったりして、なんとなく背景が読めるようにしたらいいなぁと思って。それでどっちも娘は同じ人がやったりとか。ここの浅井さんの娘も、もしかしたら若いときはあんなふうに川辺で話してたのかなとか。

玉田 あ、そういうことですか。他の作品のときはあんまりそのやり方はしてない?

石黒 そうですね。ここまで複雑だからこそやったっていうのもありますし。でも他の作品でも二役まではいかなくても、そういうふうな似たような環境の人で補完するっていう作りはやったりしてます。

玉田 答えにくい質問かもしれないですけど。物語が分かりやすく、ここで始まりこう盛り上がり、この大きな出来事があって、前半とは違う様相を呈してきて、またここでなにかがあって結末に向かうみたいな。いわゆる物語に対して戯曲を作って見せるっていう作り方じゃないじゃないですか? っていうよりも、その人たちを見てたら、その人たちの細かいやりとりから、ちょっとずつ背景みたいな、その人たちの人生みたいなものが透けて見えてきて。で、それを見ながらこっちも納得していくというか。その時間、その見えてくる時間をずっと一緒に見てるみたいな感じで、いい作品だなぁと思って。なにを書けたらOKだとしてるんですか? っていう質問なんですけど。石黒さんとして。これに限らず、書くときに、あ、書けたって思う、これはいけたって思うときって、どんなものをどんな瞬間を書けたときに思うんですか?

石黒 それが、私はじめに絵が頭にあるんです。役者さんがこういう感じで座って、こう対峙して、こんな表情で話しててっていう絵が最初にあって。それがいくつかあって。それがどうしても欲しいから、そこに向けて会話ができていくような感じがあって。

玉田 内容は決まってない見た目だけ?

石黒 そうなんです。どうしてもその瞬間が見たい。再現するためにはどうしたらいいんだろうって。完全にもう自分の見たいもののためにやってるんですよ。

玉田 それでも見た目だけだったら、本当に極端な話、そう配置すればそうなるじゃないですか。でもそうでもないですよね。その見た目だけだけど、そこに伴う何かしらの情緒があるんじゃないですか? それもその頭の中に絵が浮かんだときにくっついてくるんですか?

石黒 そこにいる人がどんな表情で、それからどういう感情でいるかっていうのがあって。そして、その感情に到達するにはどうしたらいいのか?と…

玉田 なるほど。話の内容までは決まってないけど、そのときの感じっていうところまで含めて、その見た目を想像してるってことですね。どんな話でもいいわけですもんね。要は病室をテーマにしてなかったとしても、そこに到達できればよくて。たまたま今回は出発点として、自分の経験から取ってきてやっていったぐらいの感じ?

石黒 そうですね。本当に(見たい)絵があって、その絵が連なっていって映像になってるみたいな感じで、見ている絵の中の人物の会話は、最初は口はパクパクしてて何言ってるか聞こえないんですけど、だんだん話してることが聞こえてくるみたいな。

玉田 面白いですね。毎回そうですか?

石黒 そうですね。こういう話にしようとか全然最初は決めてなくて。

玉田 それはでも……あ、質問続いてるけど大丈夫? それに付随した質問ですけど。決めてから、それが見えてから、企画するんですか? それとももうスケジュールとかもあるじゃないですか劇場って。取らないと直前に取ろうと思ったって取れないから、取っておきますよね劇場。その時点で浮かんでたらもちろんいいと思いますけど、浮かんでない場合もありますよね。どういう感じなんですか?

石黒 それが何個か絵があって、その時の劇場とか集まってくださった方々とかに応じて、あ、これやろうみたいな感じで持ってきてやる感じです。

玉田 もうすでにじゃあもうストックされている、これをやってみたいっていう絵が何個もあるんですね。で、バランス見ながらこれだったらこれも。それがじゃあちょっとずつ減ってもまた増えるし。ちょっともっといっぱい話したいぐらいですけど(笑)、(時間的に)多分もう帰れってことなんで。

石黒 いえ、とんでもないです。ありがとうございました。お話ししていただいて嬉しいです。最後に改めてお知らせなど。

玉田 お知らせは、僕はさっき冒頭でも話した玉田企画の新作の公演が3月後半に下北沢の小劇場B1っていうところであります。それに石黒さんも出演されています。もし少しでも興味持っていただけたら、見に来ていただけたら嬉しいです。ありがとうございます。

石黒 私もめちゃくちゃ楽しみにしています。はい、ありがとうございます。それでは終わりにさせていただきます。


2024年12月7日(土) 三鷹市芸術文化センター 星のホール