劇団普通『秘密』のアフタートークにて、松井周様をゲストにお迎えしお話しいただきました内容を、アフタートーク回にお越しいただけなかった皆様にも是非ご覧いただきたく、お許しをいただき書き起こさせていただきました。是非ご覧くださいませ。
ゲスト 松井周様(劇作家・演出家・俳優)
石黒麻衣(劇団普通主宰)
舞台写真:福島健太
石黒 本日はご来場いただきまして誠にありがとうございます。ただいまよりアフタート ークを始めさせていただきます。私が作・演出で、劇団普通主宰の石黒と申します。本日はよろしくお願いいたします。
松井 戯曲書いたり、俳優もときどきやったり、あとサンプルというユニットを主宰してる松井と言います。よろしくお願いします。
石黒 本日はご来場いただきありがとうございます。こんなふうにお話しさせていただくのは、ほとんど初めてで。
松井 はい。
石黒 ちょっとご挨拶はさせていただいたんですけど。
松井 多分前回のこちらでやった『病室』のときにご挨拶しましたね。
石黒 その節はありがとうございました。
松井 おつかれさまでした。すごく面白かったです。
石黒 ありがとうございます。
松井 そうですね。はい、どんな感じでいきましょう。
石黒 ご覧になっていただいてご感想などございましたら、お伺いできると。
松井 あの、そうですね。見ている間、ちょっといろんなこと考えて。僕も実は介護というか、父が去年亡くなったんですけど、最後はちょっと介護が必要で。なので、そういうこともあって、なんかもう、いろんな端々にいろいろ刺さったところもありました。それ以外にも劇団普通を、この前『病室』のときに初めて見て。で、僕は実は「青年団」という劇団の劇団員でもあって、今回も青年団の人出てましたが、とても青年団というものを、自分が所属していたってのもあって思い出すところもあって。でもそれとも違う感じの演技スタイルというか、本当にすごくディティールというか、細かいとこまで作り込んで、しかもそれは作り込むっていう感じに見せなくて。まるで本当、日常のどこかであって紛れていて。演技だと思えないぐらいの、そのぐらいの感じでやってる。その感じっていうのは最初からそうだったのか、どういう感じでこの劇団普通ができてきたのか、みたいなお話もちょっとお聞きしてもいいですか?
石黒 はい。このような茨城弁の芝居を始めたのが、松井さんもご覧になった『病室』で 2019年が初演なんですけれども、それまでは標準語の芝居をしておりまして。その頃から題材が家族であるとか、兄弟とか友達とか近い関係の話を書くことが多かったです。今おっしゃっていただいたディティールについては、多分私がすごく気になってしまうっていうのがあって。なるべく本当のものを舞台にのせたい。それも会話も、本当のものをどうやったら舞台にのせて、お客様にお見せできるものにできるんだろうかっていうのをずっと考えてて。セリフに関してはいろんなことを試して、書いていったり。あとは動作に関してはもう本当に感覚なので、説明が難しいんですけれども、ないものに関しては、なるべくパントマイムにならない、いかにパントマイムにならず、あることをこの想起させるように動けるかとか。
松井 例えば最初、食器が出てた設定でしたよね? で、それを片付ける片付けないみたいな話があったんですけど。そのときの演出は(食器は)ないけど、どういうふうに?
石黒 そうですね。そこにないことをできる限り忘れさせるように。なので、基本的に置くものについても本当に本物をひとつ置きだしたら、ここに一軒お家を立てないと気になってしまうので。
松井 あ、なるほど。映画とかだともうそのまま全部あるし、(舞台の)ここに多分テレビっぽいものがあるようになってましたけど、演劇だとそれやると邪魔になったりとか。もうここだって壁だっていろいろあるはずですよね。窓だって、庭だって。それじゃ、できないから、信じてよ、と。
石黒 そうですね。あと、なくても演劇って人間が本当に全部手作りで作ってるものなので、それが本当にすごいなって思っていて。 1 回全然こたつがないのにあるっていう形で芝居をしたんですけど、
松井 やったんですか?
石黒 はい、そうですね。(こたつに)入ってて。決まりとしては触れるものは本当のものがあるんですけど、触らないものは自然な動作でそれを避けたりとか意識したりするようにしています。
松井 あ、なるほどね。それはちょっとすごい斬新というか。やっぱりそれはやってきた中でだんだん積み上がってきたんですか?
石黒 そうですね。ないものをあるように見せたいっていう思うことは昔からあったんですけど、それを役者さんと共有するのがとても大変で。みんなでそこにあるもの完全に認識しないとできないことなので。あと触らないようにするアイデアとか。
松井 例えばそれは大きさとかも相談するってことなんですか?
石黒 はい、そうですね。ここに座卓ぐらいのものがあるので、それを避けていかに自然にこの場に続けるか……。
松井 なるほど。え、例えばセリフはどうなるんですか? セリフも聞いててすごいなと思うのは、セリフ喋ってる人ではなくて、喋ってる人ももちろんあの面白いんですけど、喋ってない聞いてる人のちょっとした相槌とかリアクションみたいなものが、すごくリアルといえばリアルなんですけど、それはセリフに決まってるものなんですか? それともちょっとアドリブが入ったりするものなんですか?
石黒 そうですね。はっきり発声してるものに関しては、全部セリフ通りで。
松井 ちょっとした「ああ」とかっていうのは全部セリフとして入ってる?
石黒 そうですね。「ああ」とか。
松井 じゃ、結構すごい短いセリフがわあっと連なる戯曲になるわけですね。
石黒 そうなんです。みんな覚えるのが大変です。
松井 大変ですよね。同じようなシークエンスというか何度も繰り返されるところがあるので、少しずつ違うみたいなところも、何度もやって覚えるみたいな。
石黒 はい。
松井 いやあ、できるかな、自分が? ってやっぱり思いますけど。
石黒 私も書いて、出演したんですけどすごく苦労しました。(場内笑)
松井 やっぱりそうなんですね。ご自身でも。
石黒 (出番の)直前まで言えなかったらどうしようと思って震えながらセリフ思い出してます。
松井 そうなんですね。いや、そういう真剣勝負なんだなって。でも全然それを感じないというか、誰も緊張してないというか。本当ちょっと弛緩した時間というか。のんびり流れる時間っぽくは見えるし。すごいなと思いました。あと、もう質問ばっかりですみません。最初に、家族とか、近い人達っていうのを題材にするっておっしゃってたと思うんですけど、老いというか、年配の人を出すの好きなのかなってすごく思ったんです。『病室』もやっぱり老人が出てきたなっていう感じはあるんですけど、そのへんはなんかあるんですか?
石黒 そうですね。私がリアリティのあるものを描こうとしたときに、まずこう手っ取り早くというと言い方があれなんですけど、まず身近なものって考えたときに、家族とか親戚とのモチーフがあって。多分それもたまたまで周りに若い方よりも割と年配の方が多かったっていうこともあるかもしれないです。
松井 そんな年配の方といらっしゃるって、仕事だったり、自分の住んでるところにですか?
石黒 そうですね。地域性もあると思います。私の個人的なことですけど、生活環境もあるのかもしれないですし。もし学校の先生とかやってたら若い人がいっぱい出てくるのかもしれないです。
松井 ああ、環境によって違ったんだろうな、ぐらいの。
石黒 やっぱりリアルなセリフを書くには、自分がよく知ってることを書くのがよいだろうと思いましたので。
松井 いや、それは面白かったです。あと演出で面白かったのが、季節の変わり目、例えば扇風機からストーブになるとか、出ハケとかがすごくシンプルに作られてる。演劇って音楽かけたりとか派手にとか、派手にとは言わないまでもちょっと演劇っぽくなんかしようみたいなことは、ほぼないじゃないですか。
石黒 そうかもしれないですね。
松井 それはなにかもう完全に自分の方向性はそっちっていう感じなんですか?
石黒 そうですね。感覚的なもので、できるだけシンプルに見せるにはどうしたらいいかなってことをいつも考えてます。でも元々は、(演劇の)勉強始めた経緯が多分、学校とかいっぱい仲間ができるような経緯で始めていないので。
松井 あ、そうなんですか?
石黒 個人で始めてるので。自力でなんとかできるところからスタートしてるっていうのも。
松井 個人で始めるって? 演劇って人がいないとなかなか始められないと思うんですけど、どうやって始められたんですか?
石黒 全然有名でない演劇教室で、最初、俳優の勉強して、それからちょっと自分でもやりたいなって思って。
松井 全然有名じゃない演劇教室っていうのは。近所でやってたんですか。
石黒 そうです。インターネットで見つけて。
松井 はあ。そこで始めて。じゃ、周りの方は働いてる方で。
石黒 そうですね。
松井 なるほど。だからわりと普通に生活されている方が、結構出るみたいな。
石黒 そうですね。はい。
松井 あんまりアーティストみたいな人は出てこないですよね。例えばなんか芸術家みたいな。
石黒 そうですね。はい、確かに。
松井 なんか、まだ緊張されてます?
石黒 そうですね。
松井 僕もちょっと伝染ってきちゃった(笑)。でもね、本当面白くて。物語も実はすごく面白くて。いや、なんて言ったらいいんでしょうね。親と子供の間なんですけど。親と子だからいろいろ喧嘩とかあったりするとは思うんですけど。喧嘩に出てきている部分は氷山の一角で、その親子には多分たくさんの歴史があったり、積み重なってるものがあって。ときどきそれがふっと出てきて、そのことにぐっと来るというか。親がだんだん弱くなってくると、こっちがどんどんいろんなことをやってかなきゃなんないってなったときに、ふと子供の頃の話をされたりすると、今まではお世話する側だった自分が、ちょっとだけ甘えられるような時間ができたりとかっていう。そういうスイッチが起きたりするっていうのを、そんなことが起きるように見てなかったので、なんとなく日常が進むみたいに感じて見てると、ときどきそういう穴があって、なんかたまらなくなるというか、そういう面白さがありました。
石黒 はい。ありがとうございます。
松井 書き方とかもあるんですか? 自分の好きだな、みたいな。なにを描きたいみたいなっていう?
石黒 あ、そうですね。初めはテーマを設けずに、頭の中でなんかこんなふうに人が話してるシーンが欲しいなって。
松井 へえ。
石黒 こんなふうに座っていて、こんな感じで話してるとこが欲しいなっていうようなストックがたくさんあって、そこから作っていく形です。
松井 じゃあ最初からラストがこういうふうに行くなっていう感じは分からないまま行ってるってことですか。
石黒 そうですね。最後はこれで終わりにしようって絵だけある場合はあります。その間の会話をこうずっと考えていると、止まってるだけの写真みたいな人たちが、喋ってるのがだんだん聞こえてくるみたいな。
松井 じゃあ、結構時間はかかる方ですか? 書くのに。
石黒 そうですね。構想にすごく時間がかかって、書く時も稽古しながら少しずつ書き進める形です。
松井 そうなんですね。じゃ、それは結構、いわゆる物語の作り方みたいなのではないってことですよね。
石黒 そうですね。プロット書いたりとか。もう大体半分ぐらい来れば、残りの構成が見えてきて、みんなのためのプロットを作ることはあるんですけど。
松井 ああ、はい。
石黒 いろいろ準備が必要なので、美術とか。
松井 あ、そうですよね。現実的に演劇ってそういうのが必要だからねっていうのはありますね。はい、わかります。でもいわゆる「あ、こういうテーマで行こう」みたいにやったことはないってことなんですね。
石黒 そうです。はい。
松井 へえ。いや、ちょっと勉強になります。というか、多分自分に同じことができるとは思わないんですけど。
石黒 ありがとうございます。あ、お時間になったっぽいので。最後になにかお知らせがあれば。
松井 8月3日から 11日に、『ほぐすとからむ』という作品を、彩の国さいたま芸術劇場の近藤良平さんの演出でやります。ダンスと演劇がちょっと混じったような作品なんですけど。ちょうど昨日、あ、今日書き上げて。第一稿ですけど。だからこれからまたブラッシュアップしてこうと思ってます。あと北海道戯曲賞の大賞を受賞した『迷惑な客』という作品の演出を、11月に札幌でします。7月に出演者を募集するオーディションもあるのでぜひ。よろしくお願いします。
今日は刺激的で、すごく勉強になりました。はい、ありがとうございました。
石黒 ありがとうございます。それではアフタートークを終わらせていただきたいと思います。
2025年6月1日(日) 三鷹市芸術文化センター 星のホール