劇団普通『風景』のアフタートークにて、山内ケンジ様(城山羊の会)をゲストにお迎えしお話しいただきました内容を、アフタートーク回にお越しいただけなかった皆様にも是非ご覧いただきたく、お許しをいただき書き起こさせていただきました。是非ご覧くださいませ。
(※作品の内容に触れていますので、これからご観劇される方はご注意くださいませ。)
参加者:
ゲスト 山内ケンジ様(城山羊の会)
石黒麻衣(劇団普通主宰)
舞台写真:福島健太
石黒 本日はご来場いただき、ありがとうございます。これからアフタートークをさせていただきます。城山羊の会の山内さんです。
山内 城山羊の会の山内と申します。よろしくお願いします。城山羊の会で作・演出をしている者です。よくここ(三鷹市芸術文化センター星のホール)でやって、今年の十二月もここでやる予定。劇団普通さんは、僕は、初演の『病室』、ここでも再演をやったんですけど、その前に池袋の空洞っていう小さなところで初演をやったんですけど、それを見て、とても驚いて、素晴らしくて、それからずっと見ています。そのさらに過去のやつも映像でちょっと見せてもらったり。過去のやつはね、全然茨城弁じゃないんですよ。標準語で。しかも自分の話ではなくて。谷崎の『卍』かなんかを原作にしたもので。だいぶ作風が違うものだったんですけど。それはそれで面白かったんですけど。でもとにかく『病室』以降見ています。
石黒 あ、ありがとうございます。
山内 『病室』以降、全てに出ているのは用松さんですよね。今日のお父さんをやった。でも、だいたい似たような役柄で、田舎のお父さんという。まあ一度あれか、『電話』っていうやつはお兄さんをやったんでしたっけ。
石黒 あ、弟を。
山内 弟をやったんでしたっけ。そっか、電話の相手はお兄さんか。ま、でも、もう本当にあれです。ここまで用松さんでいくなら、もう最後までいいんじゃないでしょうか。小津の笠智衆みたいなことでね。素晴らしいと思います。
石黒 はい。ぜひ、出演していただけたらと思っています。
山内 でも、ほかの、今日の役者さんは、用松さんだけじゃなくて、全員本当に素晴らしい。えっと、昨日、初日だったでしょ?
石黒 はい。そうです。
山内 俳優の松浦祐也さんが、びっくりして素晴らしいってツイートしてたけど。俳優の人ほど、役者さんほど驚くと思うんですよね。このクオリティの高さっていうのはね。本当に、理想的なレベルだと思います。稽古、たくさんやりますもんね。
石黒 はい、いつもたくさんしております。
山内 すごいんですよ。普通は一ヶ月ぐらいなんだけど。もっとやってますもんね。
石黒 そうですね、短くても一・五ヶ月で、二ヶ月以上できればやりたいと思っております。
山内 すごいですね。えっと……、いや本当に全部面白かったんですけど、二時間十分が僕はもうあっという間で。これだけのリアルな会話にしているから、いくつかその、なんて言うんですかね、どういうことだろうっていうところがあって。リアルな会話にするっていうのはつまり、説明セリフとかをしていないから。ナレーションも入らないし。
石黒 はい。
山内 だから、どういうことだろうっていうところがあって。それは別にわからなくてもいいのかなっていう気もするんだけど。このレベルになってしまうと。もう、そういう細かい内容とかはって僕は思うんだけど。でもせっかくここに呼ばれたので質問をしたいんですけれど。笑
石黒 はい。
山内 用松さんが長男ですよね。で、浅井浩介さんがやった、あの、ちょっと髭を生やした。浅井さん素晴らしいですよねぇ。ちょっと驚きました。城山羊の会に出てもらったときとかは、ずっと若いイケメンな感じだったんだけれども。そういうイメージなんだけども。出てきた瞬間に、なんて言うんですか、こう、ブルックリンの、ちょっとやさぐれたヤクザみたいな感じ。あれ、パーマかけてんの?
石黒 あ、どうなんでしょう……。
山内 天然パーマかな? でも田舎のね、ブルックリンじゃなくても田舎のなんか、遊び人みたいなそういうやさぐれてる感じ。喪服着てるからアレだけど、ワイシャツ脱ぐとネックレスでもしてるような感じが素晴らしかったですけど。で、浅井さんが、三男なんですよね?
石黒 はい、そうです。
山内 三兄弟なんですよね?
石黒 あ、そうです。男が三人で。
山内 男が三人で。二番目が出てきてないんですよ。で、二番目っていうのが、二番目って言ってるんだけど。えっと、なんて人でしたっけ?
石黒 えっと、富男です。
山内 あ、富男。富男は出てこないし、謎な人物ですよね。
石黒 はい。
山内 僕がわからなかったのは、喪主のことでケンカをする。次男と三男で、喪主をどっちがやるか、揉めたっていう。長男は、喪主ではないんだ? それはなぜ?
石黒 死んだ祖父と折り合いが悪く、家を出ておりましたので。
山内 なるほど。そのことはセリフではあんまりわからないですよね。用松さんもあんまり言わないし。面白い場面が繰り出されてくるんだけど、それに関してはあんまり言わないから、ちょっとわからないという、ことと……。でも僕はね、最初に二番目っていう、二番目のほらあの人っていうセリフを聞いたでしょ。そんときにね、全然勘違いして、蒼太の、つまり浅井くんの奥さんね。別れてんのかな。別れた奥さん。蒼太のお母さん。真理子さん。真理子さんも出ては来ないんだけど、その二番目の人ってのが、別れて、再婚した人なのかなって思っちゃったんですよ。そうすると、そのなんつうの、なんで蒼太がお父さんの側に一緒にいるのかっていうのが、理屈がつくからって思っちゃったんだけど。でも聞いてくうちに全然変だから。家にいるし。その二番目の人ってのが。だから次男なんだなと思って。とすると、逆にその、奥さんは出ていって、蒼太は連れていっていないっていうのは、それはなんでなんですか?
石黒 たぶん、連れていけなかった……。
山内 それはなにか理由があるの?
石黒 経済的に……。
山内 あ、経済的に。なるほどねぇ。大きくはその二点を見ていて疑問に思ったのです。でも、それがわからなくても、まあ別に大した問題ではないかなっていう気がするんですけど。
石黒 そうですね、わからないところは、わたしが田舎にいて、親の親戚付き合いなどを見ていた時分に、ほとんどわからないことばかりだった、という気持ちかなにかどこかにあったのかもしれないです。
山内 最初の葬式の場面での親戚での話ってのが、叔父さんとか、富男叔父さん……、とにかく何回も「叔父さん」っていうのが出てくるから、なんのことだか一瞬わかんなくなるんですよね。でもま、あの、見ていくうちにだんだん「ああ、そういうことなのかな」ってわかってくるものだと思います。
石黒 はい、ありがとうございます。(会場笑)
山内 最初の用松さんたち、家での会話が、なんていうのかな、セリフ自体もそうだし、「狭くて通れないよ」とか用松さんが言うとことか、あそこらへんの家族の全員のアンサンブルが本当に素晴らしくて、度肝を抜かれたわけです。そのあとの葬式のシーンですけれど、喪服の人たちがこうやって、やってきますよね。今回はいつもと違って、空間が広いから、アクティングエリアから、フレームインするまでの距離があるじゃないですか。それをちゃんと活かしていて、喪服の人たちが全員歩いてくるところがね、本当に素晴らしかったですよね。テオ・アンゲロプロスのワンシーンか、みたいな。
石黒 はい。
山内 感じがしました。
石黒 はい。ありがとうございます。(会場笑)
山内 もうひとつあの、鄭亜美さんが、一人二役をやっているんですよ。あれは初めから思っていたの?
石黒 あ、やっていくうちに。
山内 でも岩瀬くんの奥さんが出てくるっていうのは、決めてはいたの?
石黒 はい。
山内 決めてはいた。最初にキャスティングしてるじゃないですか。
石黒 はい。
山内 ということは一人足りないわけでしょ? それは、やっぱり二役やってもらうっていうのは、初めから決めてたわけではなくて?
石黒 そうですね、どのようにエピソードを積み重ねていくか考えまして、やはりどうしても兄の奥さんに出てきてほしいと思い……。
山内 ああ。
石黒 二役に決めました。
山内 なるほど。それはだから書いてる段階で、奥さんが、ということですね。
石黒 はい。
山内 あれが、なんて言うんですかねぇ。これだけ、リアルでナチュラルなお芝居なのに、一人二役というのが、演劇ではそんなに珍しいことではないんだけれど、そういうことがあまりにもリアルだと、違和感があるトーンっていうのがあるじゃないですか。で、僕も実はやったことないんですよ。一人二役っていうのは。でも本当に、演劇はいろいろだから、一人が二役も三役もやるお芝居もたくさんあるんだけれど、なかなか、僕は自信がなくてっていうか。やっぱりリアルなトーンにしていこうとすると、どうしてもそういう演劇的なことや象徴的なことに踏み切れないっていうのがあって。でも、今日のを見ると、すごく面白いなって思ったんですよ。鄭亜美さんが、お姉さん、紗英さんが妊娠したっていうことをわからせていくじゃないですか。そういうシーンがあって、で、別の人物たちのシーンを挟んでから、次に鄭さんが出てくる時、子供は産んでるんだけれど、ところが、別人の亜季になっているんですよね。で、また紗英のシーンになった時、紗英は当然、産んでるじゃないですか。子供産む人は一人なんですよ。二人いるんだけどね。で、子供を産むのは鄭亜美さんなんですよ。それがすごい面白いなって思って。なんて言うんですかねぇ、子供を産む担当、みたいな感じ。で、産めない人たちがほかにいて。ちょっと神話的な、というか。あの、出産の神、みたいな感じ。
石黒 はい。
山内 そういう気がしました。すごく面白いなって思って。
石黒 (小声で)よかった。ありがとうございます。
山内 でも、クライマックスはなんといっても、用松さんがネットの記事を見せるところですよね。子供の問題っていうのは、石黒さんは『病室』のときからずっとやってるじゃないですか。『病室』のときの用松さんは「うちは子供がいないから」ってさ、五十回くらい繰り返してましたよね。で、誰でもみんな「父ちゃん」って言うのが衝撃だったんですけど。子供っていうテーマをずっとやっている、とも言えますよね。
石黒 はい。
山内 基本には自分のお話がベースになってるから、なんて言うんですかね。いや、すごく面白いんだけど、ネットの記事のところ。まあ面白いよね、もちろんというか。驚きはしないんですけど。
石黒 はい。
山内 用松さんとこの面白さっていうのは、手中に入ってるって言うか、いや、素晴らしいんだけど、書いてて多分、楽しいんじゃないかっていう気がして。さっきの人間関係を、他の親戚の人たちが、だんだんわからせていく。情報を、そこで出さなくてはいけなくって。その情報を出すっていうことと、なおかつそれだけではなくって、説明だけではなくって、それと同時に親戚の人たちの人物造形っていうのを、ちゃんと出していくっていうのが、そこが一番難しいところだと思うんですよね。それが今回はいつにも増してよくできていて、いや、敵わないなと思いました。
石黒 ありがとうございます。
山内 青柳さんのリアリティは本当に素晴らしいけど、彼女の、水鉄砲とか、お菓子をあげなくちゃとか、お姉さんの子供にね。そこ、ずっとしゃべるんだけど、でもなんか、しゃべり終わったら、さみしそうな表情になるっていうのも素晴らしかったしね。それから、安川さんが、ピアノの手だって言って、お祖父さんのお兄さんの夫婦のところに行って、ピアノの手をしてるって、ちょっとセンチメンタルなっていうか、感動的なっていうか、そういう話をするんですけど、テレビドラマとか映画とかだったら、ああいうポイントのセリフっていうのは、なんかゆっくりしゃべってさ、BGMが流れたりするようなもんなんだけど、そういうことは絶対にしないで、安川さんはものすごい早口でしゃべりますよね。あれだけ早いんだけど、全部客席に届いてるし、いや本当にああいうところが素晴らしいと思います。あれは演出をされてるの?
石黒 はい、本当にただの笑い話として、話してくださいと言いました。子供の頃、どこかに連れていかれてしまったっていう。なにげなく……。
山内 なるほど。そう。そういう、作為的というか、狙った演出を一切やらないところが、劇団普通のすごいところですよ。あと、最後に、これだけは言っておきたいっていうのがあって、それはこのクオリティでこのレベルのお芝居が、チケットずいぶん安いですねっていう。あの、え、いくらだっけ?
石黒 二八〇〇円……。
山内 二八〇〇円? いまみんな値上がってますからね。価格破壊というか。すごいですよね。ここで十二月に城山羊の会やるんですけど、こんなレベルにはとても無理だから、これが二八〇〇円だったら、城山羊は一五〇〇円くらいにしないとダメなんじゃないかって。一五〇〇円だったら、映画よりも安くなっちゃう。
石黒 あ、お時間……。本日はありがとうございました。
2023年6月3日(土) 三鷹市芸術文化センター 星のホール