劇団普通『水彩画』のアフタートークにて、瀬々敬久様をゲストにお迎えしお話しいただきました内容を、アフタートーク回にお越しいただけなかった皆様にも是非ご覧いただきたく、お許しをいただき書き起こさせていただきました。是非ご覧くださいませ。
ゲスト 瀬々敬久様(映画監督)
石黒麻衣(劇団普通主宰)
舞台写真:福島健太
石黒 それではお待たせいたしました。アフタートークを始めさせていただきたいと思います。私、石黒と、瀬々敬久監督にお越しいただきました。
瀬々 瀬々です。よろしくお願いします。
石黒 どうぞおかけください。ちょっと会場が2面あって難しいので、このような向かい合う感じでお話しさせていただきます。本日はありがとうございます。
瀬々 ありがとうございます。
石黒 はい、今日ご覧いただきまして、あのいかがでしたでしょうか?
瀬々 そうですね。
石黒 すみません。なんかいきなり。
瀬々 とっかかりとしてはですね、僕、隣のカフェで撮影したことあるんですよ。
石黒 そうなんですね。
瀬々 2018年の『友罪』っていう、生田斗真さんと瑛太さんが出てる映画なんですけど。隣で、撮影しました。それをここに来て思い出して。縁があるなと。まあ、とっかかりはこんな感じで。
石黒 はい。ありがとうございます。
瀬々 劇団普通でしたっけ?
石黒 普通です。
瀬々 2回目なんですけど。前に続いて。やっぱりこの茨城弁というのが、特色あるじゃないですか? 僕は大分県のすごい田舎のほうなんだけど。茨城のどちらなんですか?
石黒 茨城の、県庁所在地の水戸の隣にあります、那珂市というところの出身です。
瀬々 パンフに書いてたけど、窓の外から見る風景は、ど田舎なんですか?
石黒 ものすごく田舎です。私の最寄り駅が、1時間に2本来たらいいなっていって、無人駅とかばっかりのような駅のところで。とても田舎です。同じ茨城出身の俳優で、前回の『風景』にも出ていただいた岩瀬さんがたまたま私の最寄り駅をお仕事で通過されたそうなんですけど、こんなに田舎だと思わなかったって驚かれました。
瀬々 小学生、今、自分の小学校何人いるんですか? 出身校。
石黒 出身校は、あ、でも、小学校は近隣まとめてですね。
瀬々 あ、結構あれだ。都会なんですね。僕の出た小学校は今8人しかいないです。すごい田舎なんですけど。まあいいや。僕の話だっていいですけど。この芝居ずっと。まあ茨城を舞台にしてるじゃないですか。やっぱ僕はそこが素晴らしいなと思うんだけど。石黒さんにとって茨城を舞台にして東京で上演するってことはどういう感じなんですか? どういう意味がある?
石黒 それなんですけど、わたし始めた当初は、まったく標準語の芝居を書いておりまして。ただ、本当に名もない小さい教室で俳優を始めたのが演劇のきっかけなんですけれども。一番最初に書いた茨城弁の芝居が実話を基にしていて、かなり具体的な、病室の話を書いたものなんですけど。その話を台本にしたいという強い思いをずっと俳優だけをやっていたときから持っていまして、でもそれを描き切る力がなかったんです。その、俳優のときには。最初7ページくらい書いたんですけれど、ほぼ実際に上演したときと同じものを書いていまして。それから俳優を数年やって、それから主宰を、自分で作・演出する劇団普通をはじめて数年したときに「あ、これはもうそろそろいける」と思って、それで初めてその茨城弁の2時間以上の芝居を書いて、それからなんか、あの改めて考えてみると、その自分のなんか感情表現の原風景みたいなものが、もう私は東京に出てきて20年以上になるんですけど、やっぱりそこにあるなっていうことを感じて、なんかそれを無自覚な部分もあるんですよ。もちろん。それやるうちにどんどん自覚していくっていう形で、今もずっと書き続けています。はい。
瀬々 やっぱりこう、皆さんの反応見てると最初にもう茨城弁で話し出しただけで、みんなこうニヤニヤしてるんですね。つかみOKみたいな。やっぱそのへんからだんだん深刻になっていくという感じなんだけど。僕なんかも自分の田舎、僕さっき言ったど田舎なんですけど、やっぱそこが唯一って感じするんですね。まあ東京とか行ったり、世界をいろいろ行ったって。他はどこ行っても一緒というか。自分が住んでた、18までいた田舎が唯一無二って感じは今でも思うんだけど、やっぱそういう感覚ってのあるんですか?
石黒 あります。本当に茨城にいた頃が本当にここから外に出ることはもう一生ないんじゃないかって思うぐらい、ずっと長い期間に感じてたんですね。実際には大学進学で上京してきてたんですけど、その自分の部屋から見る景色だけが全部全てで。本当に、年齢がばれそうなんですけど、本当インターネットも全くないし、なんかゲームも兄が占有してて、たまに買う雑誌ぐらいがもう情報源みたいな。テレビも私の親がもうもちろん優先的にチャンネル権を握って見てるものなので。そういった環境にいて、その頃はもう早くなんか都会に行きたいなってばかり思ってたんですけれども、なんかその時に見聞きしたものは、ものすごく鮮明に全部覚えていて、なんかその他でそんなに記憶力がいいわけじゃないんですけど。その時に周りの人々が話していたこととかが、どういう感情で話してたのかまではまだ私がその想像が及ばないことでも全部覚えていて、それを書き出すとこういう意図で言ってたんだっていうのは後から気づくみたいなことがありまして。なんかその記憶を今はもう出てきてしまってるので、帰るのはもう本当に少なくなってきてしまってるんですけど。もう言ってみれば今はない記憶をどんどんどんどん再現してってるような形です。なんかちゃんとしたお答えになってるかわかんないですが。
瀬々 映画でも演劇でも演じてるっていうことも一緒なんだけど、なにかをこう再現しなきゃいけないじゃないですか。でも再現する元って、人間でも自然でも世界でもまあ言ったら完璧っていうか、存在としては完全じゃないですか。でも演じたり、それを再現したりすると、どうしても負けちゃうっていうか、そういうとこがすごくあるっていうか。でもやっぱりこのそういう根っこの部分をやっぱり自分の茨城っていうか、生まれ育ったところに持っていこうとされてるんだなということはすごく感じるんですけど。それと一方で、今日のものっていうのは非常にこうたまたま僕らが居合わせたみたいな風景になってるわけですよね。偶然居合わせたような感じでやってると思うんですけど。映画も、なんかこう一番いいのは、偶然撮ったぞみたいな、そういう画が一番素晴らしいなと思うんですよ。狙いとかなくて。たまたま撮ったよねってのが一番素晴らしいといつも思ってるんだけど。今回もそういう風にしてるとは思うんですね。居合わせたようにやってほしいみたいな感じで。これって隣カフェなわけで、そこの隣でやってるんだけど、これは戯曲が先にあったの? それとも場所が先に決まってこう決めたんですか?
石黒 私が書くときにはエピソードが常にいくつかあるんですね。あのセリフの断片ぐらいのものなんですけれども。で、今回は場所を劇場以外でいろいろ探していまして、それでここに決まったときに、カフェっていうことで、そこからいろいろこうぱあって組み合わせてそここれをやりたいっていうことで書いたので場所が先でもあります。はい。
瀬々 すごくこう、見てると唯一無二の体験になってるな。って感じ。強くてそこが素晴らしいなと思ったんですけど、それは狙い通り?
石黒 お客様がそう感じてくださったらよかったなって思います。
瀬々 はい、思いました。
石黒 ありがとうございます。
瀬々 それと、もう一個聞きたいのは、すいません、聞いてばかりで。前見たときも思ったんですけど、今日も電気をつけるだけで1個レベルを上げるじゃないですか? 芝居の、ステージアップするっていうか、層が変わっていくっていうか。前の芝居もなんかそういうことをやったような気がしたんですけど、層がもう1個違う層に移るみたいな。電気をつけるというのはいつ発見したんですか?
石黒 電気をつけるのはどうなんだろう? なんかやっていくうちになんかいいかなって思ったのが本当で、あの元々のなんか、照明に対する考え方っていうのが、本当に知り合いが全くいない状態で演劇を始めたので、スタッフさんの知り合いもいないし、どう最小限でやるかっていうところからスタートしていて。なので、そこにちょっとずつプラスをしてて、これの照明もあのお客さんの明かりと舞台中でしか変化がなくて、さらにそこに何をつけたらいいのかっていうことで、この明かりを用意しました。なんかあんまり答えになってない。
瀬々 でも、あとそれはもう芝居のあれですか。稽古中になんか見つけたわけですか。そういうことやろうって。
石黒 そうですね。書き始めたときにはだいたいこうやって配置でこうして、それであの場面転換をしようって考えました。
瀬々 じゃあ書き始めたときにはだいたいステージの感じは、場所はこうだし、こういう風に人物を動かそうみたいなのは決めてたわけですか?
石黒 そうですね。
瀬々 でも、もう一つあるんだけど。もう1回言いますけど、層が上がるじゃないですか。層っていうか、芝居のステージがぴょんと上がって、違うステージに移っていくんだけど。それって意外と特色ですよね。
石黒 そうですね。多分、暗転して場面を変えるとかそういうことがなく、もうこの場だけでも全く照明が変わらないので、言ってみれば役者さんが人力で場を変えていくしかないんですよ。なので、その中でなんかそれもやっていくうちに面白いなと思って、人間の力だけでどれぐらい場を変えられるんだろう。っていうことは、いつも考えてます。多分できるだろうっていうなんか、あの最初に映像が先にあるんですよ。言葉じゃなくて。なので、頭の中ではもう1回全部芝居はできてて、それで稽古をやりながら、ちょっとずつ、ちょっとずつレイヤーを重ねるようにして稽古して芝居を作っていくんですけど、その中でこのシーンはこうすれば多分雰囲気がまた中にいる役者さんの心情とかもガッて変えることができるだろうっていうのは、ある程度目論見を持って稽古して、それがやってみて成功すればよしそのままやろうってそのような感じでやっております。
瀬々 いや、それが突然こう演劇的になるってのがおかしいんですけど。ポーンと1個上に上がっていくのが電気1つ付けるだけで変えていくというのは素晴らしいなと思って。今日後半で泣いていらっしゃったじゃないですか。すいません、あれって毎回泣いてるんですか?
石黒 はい。
瀬々 毎回あそこまで行くんだ。素晴らしいですね。
石黒 ありがとうございます。キャストの皆様が本当に素晴らしくて。
瀬々 やっぱあれも電気つけてるおかげかなと思うんですけど。
石黒 そうですね。やっぱりつけると明かりもちょっと色味を変えていまして、白っぽい明かりでそのほうが家らしいかなということで、多分それもちょっと心情に影響があるかなっていう風には思っております。
瀬々 さすがです。
石黒 ありがとうございます。
瀬々 時間大丈夫? 皆さんまだまだ聞きたいことがあると思いますが、大丈夫ですか? 質問とかいいですか? 1つぐらい受けますか? 大丈夫ですか。
石黒 あ、大丈夫でしたら、はい。じゃあこちらで。本当、名残惜しいんですけれども、あのアフタートーク終わらせていただきたいと思います。なにかお知らせなどございますか。
瀬々 お知らせですか? えっと、3月ぐらいに公開があるんですけど。まだ発表するなと言われてるんで、発表できません。
石黒 それは皆さんすごく楽しみに、私も楽しみにしております。
瀬々 はい、よろしくお願いします。ありがとうございました。
石黒 ありがとうございました。
6月22日(土) 17:30の回 公演終演後 すみだパークギャラリーささや